宮脇俊三『ローカルバスの終点へ』に登場するバス路線の現在

2021年1月作成

鉄道紀行文学で有名な宮脇俊三の著作『ローカルバスの終点へ』。全国津々浦々のローカルバスの終点を訪問するさまを描いた1989年の作品だ。

ローカルバスの終点をめぐる取材は、出版前の数年間(1980年代後半)に実施されている。そのときから30年以上がたった今、それぞれのバス路線はどのような状況にあるのか――現存しているのか、それとも廃止になってしまったのか、調べてまとめてみた。

なお、本ページの内容はあくまでネット上で得られる情報を源としており、実際に訪問して記載しているわけではないことをご了承いただきたい。

川白(北海道古宇郡神恵内村)

北海道中央バスによって、岩内町の岩内ターミナルから川白行きの路線バスが現在も運行されており、1日3.5往復(平日の場合)と、作中での訪問時よりも本数が増加している。

なお、作中に記載のある神恵内村立川白小中学校は、1998年に閉校となっている。

北二号(北海道野付郡別海町)

町営の別海町地域生活バスによって、現在も上春別線・北2号行きの便が1日2往復(休日などを除く)運行されている。

大津(北海道中川郡豊頃町)

帯広駅からのバスはなくなっており、JR豊頃駅から大津地区へのバスが1日2往復、町のコミュニティバス路線として運行されている。

現在、同地区では、厳冬期に海岸に打ち上げられた氷が太陽光を受け輝く自然現象「ジュエリーアイス」を資源とした観光振興が行われている。

九艘泊(青森県下北郡脇野沢村/現・青森県むつ市)

大湊方面からのバスは途中の脇野沢までに短縮されており、脇野沢交通によるバスが脇野沢から九艘泊までを結んでいる。本数は1日3.5往復となっている。

湯ノ岱(秋田県北秋田郡森吉町/現・秋田県北秋田市)

森吉山ダムが2011年に完成し、当地にあった集落は1996年までに移転が完了している。そのため、現在、ダムから上流側に集落はなく、米内沢からのバスは阿仁前田を経てダム手前の根森田までの運行となっている。そこから先、湯ノ岱(杣温泉)まで路線バスは通じていないが、夏期・秋期のみ運行される観光客向けの乗合タクシーが杣温泉を経由する。

川代(岩手県宮古市)

宮古駅から重茂を経て石浜までは現在も岩手県北バスによって路線バスが運行されているが、石浜から川代までの区間は路線バスが廃止となっており、現在、公共交通機関を使用して川代へ向かうことはできない。

肘折温泉(山形県最上郡大蔵村)

新庄駅から肘折温泉までの路線が、大蔵村営バスによって運行されている。平日は1日6.5往復、休日は1日4往復と、ローカルバスとしては本数は多めだ。

帝林社宅前(栃木県那須郡黒羽町/現・栃木県大田原市)

西那須野から雲巌寺までは現在も大田原市営バスによるバス路線がある(途中、黒羽で乗り換えが必要)。雲巌寺から帝林社宅前までの路線はすでに廃止されているが、大田原市デマンド交通を利用することにより、帝林社宅前から南に700mほどのところにある「大田原市南方古民家」まで行くことができる。

浮島(茨城県稲敷郡桜川村/現・茨城県稲敷市)

浮島地区までは現在もバスだけで訪問することができるが、路線体系は作中と異なっている。まず、土浦駅からJRバス関東の路線バスで稲敷市の中心にある江戸崎まで行ったあと、そこからブルーバスの浮島線に乗り換える必要がある。浮島という名の停留所はすでに存在せず、その代わりに浮島中央停留所が存在する。ただし、浮島中央停留所は東西に広がる集落の中央くらいの位置にあり、作中での説明(浮島停留所は集落に入って3分の1くらいのところにある)と食い違いがあることから、浮島中央停留所が当時の浮島停留所であるかは不明確である。

なお、この浮島線の終点は浮島中央ではなく、さらに先の西代地区にある「アピタ・パルナ前」。集落内の道が狭隘なため途絶していたバス路線が、その後延長を果たしたことになる。

室谷(新潟県東蒲原郡上川村/現・新潟県東蒲原郡阿賀町)

作中で室谷集落はいずれダム建設によって水没するとの記述があるが、その後ダム建設の計画は中止され、室谷集落は現在も残っている。

バス路線も同様に現存しており、新潟交通観光バスによって、津川駅~室谷間のバスが当時と変わらず1日3往復運行されている。なお、冬期は末端区間の広瀬~室谷間が運休となる。

飯尾(山梨県北都留郡上野原町/現・山梨県上野原市)

上野原駅から飯尾までのバス路線は、今も富士急バスによって運行されている。休日は飯尾からさらに先の松姫峠まで運行される便もある。

程野(長野県下伊那郡上村/現・長野県飯田市)

平岡駅から和田までの路線バスは、現在も信南交通によって運行が続けられている。

その先、和田から程野までの区間は飯田市広域バスの遠山郷線として1日3往復(平日)運行されている。現在、程野は終点ではなく、路線は1994年に開通した矢筈トンネルを経由して飯田市街へとつながっており、程野の住民が飯田市街へ出るのに、和田や平岡駅を経由する必要はなくなっている。

濁河温泉(岐阜県益田郡小坂町/現・岐阜県下呂市)

飛騨小坂駅から濁河温泉方面の路線バスは現存していない。途中の落合までは濃飛バスの湯屋線(湯谷温泉方面行き)が通っていたが、これも2020年に廃止となっている。現在、この区間には下呂市のデマンドバス湯屋線が代わりに運行されている。

落合から濁河温泉までの区間は、2007年に濃飛バス御岳線が廃止され、デマンド輸送を含めても一切の公共交通機関が通っていない。ほかに、県境を越えた長野県の木曽福島駅から、夏期限定で濁河温泉までの路線が運行されていたが、こちらも休止期間を経て2020年に正式に廃止となっている。

祖母ヶ浦(石川県鹿島郡能登島町/現・石川県七尾市)

七尾市街から祖母ヶ浦へのバスは現在も能登島交通によって運行されているが、直通便はなく、途中の「マリンパーク島の湯」で乗り換える必要がある。

作中でバスの始点だった七尾波止場は現在「道の駅能登食祭市場」となっており、能登島へ向かう場合、そのそばにある停留所を七尾駅の次に通過する。

大杉(三重県多気郡宮川村/現・三重県多気郡大台町)

大台町営バスによって、三瀬谷から大杉までの路線バスが1日5往復運行されている。

作中に登場する宮川ダム湖の船も、引き続き運行が続けられている。

田歌(京都府北桑田郡美山町/現・京都府南丹市)

京都駅から周山までの区間は引き続き西日本JRバスによって路線バスが運行されている。また、周山から安掛までの区間は、南丹市営バスによって運行が続けられている。その先、安掛から田歌までの区間も、京都交通バスに代わって南丹市営バスによって運行されているが、直通便はなく、途中の旧知井小学校前で乗り換えが必要となる。また、田歌は終点ではなくなっており、現在はその先の佐々里や、作中に登場した京都大学の演習林がある芦生まで路線が伸びている。

吹屋(岡山県川上郡成羽町/現・岡山県高梁市)

備北バスによって、備中高梁駅~吹屋間の路線バスが1日3.5往復運行されている。終点の吹屋は観光地となっており、イベント時は備中高梁駅からの直行シャトルバスが運行されることもある。

沖泊(島根県八束郡島根町/現・島根県松江市)

松江駅から出る一畑バスは、旧島根町の中心地区である加賀にあるマリンプラザ停留所までの運行となっている。そこで松江市の「島根コミュニティバス」に乗り換えると、沖泊まで行くことができる。沖泊は終点ではなく、路線は旧美保関町の笠浦地区まで続いている。沖泊を経由する便は1日7.5往復(平日)あり、ローカルバスとしては多めの本数が確保されている。

鹿老渡(広島県安芸郡倉橋町/現・広島県呉市)

現在も路線バスのみで訪れることが可能だが、直行便はなくなっている。まず、呉駅から倉橋島内の倉橋地区にある「桂浜温泉館」停留所まで、広島電鉄バスによる路線がある。そして、その桂浜温泉館から鹿老渡まで呉市の倉橋地区生活バスの路線が通じている。このバスの終点は鹿老渡ではなく、そこから海をわたった先の鹿島にある宮ノ口となっている。

寺川(高知県土佐郡本川村/現・高知県吾川郡いの町)

作中では4本のバスを乗り継いでいる。まず、大杉駅から田井までの路線は、高知県交通の後継企業であるとさでん交通によって現在も運行されている。田井から日ノ浦を経て長沢までは、作中と同じ嶺北観光自動車によって、直行便と途中の日の浦局前で乗り換える必要のある便をあわせて1日2往復運行されている。その先、長沢から寺川までの路線はすでに廃止されており、路線バスで寺川へ訪問することはできなくなっている。

中山(宮崎県東臼杵郡南郷村/現・宮崎県東臼杵郡美郷町)

日向市駅から旧南郷村の神門地区にある浜砂橋までは、現在も宮崎交通によって路線バスが1日4往復運行されている。浜砂橋から約10km先にある中山までのバス路線は廃止となっており、現在、路線バスを利用して中山を訪れることはできない。

なお、神門地区から中山までの区間は、2016年時点では乗合タクシーが運行されていたとのことだが、現在も運行されているかは不明である。

野間池(鹿児島県川辺郡笠沙町/現・鹿児島県南さつま市)

作中当時と同様、鹿児島交通によって鹿児島市中心部(山形屋)から加世田までと、加世田から野間池までの路線バスがそれぞれ運行されている。加世田~野間池間のバスの本数は1日7往復(平日)となっている。

奥(沖縄県国頭郡国頭村)

那覇バスターミナルから名護バスターミナルまでを沖縄本島の西岸沿いに走る路線バス(名護西線)は、琉球バス交通と沖縄バスによって共同運行されている。沖縄県の基幹的なバス路線であり、本数も多い。

また、その次の名護から辺土名までの路線も、同じ2社によって共同運行が行われている。頻度は1時間1本程度で、作中当時よりは減便されている。

辺土名から奥までの便は、現在、国頭村営バスによって運行されている。本数は、作中当時の「2時間に1本」から大きく減って、通学時間帯の2往復のみとなっている。また、これ以外に、事前予約制の乗合バスが日中に2本運行されており、このバスを利用しても奥に行くことができる。

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